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◆ ロシアのアネクドート ◆
エドアード・ブラーソフ (HIT研究員)
訳:東郷祐三子(第22〜現在)・中村淳子(〜第21回)
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第70回/4月(No.290)
エリツィン その1
2006年2月1日でロシア連邦の初代大統領、ボリス・エリツィン氏が75歳になった。
誕生日を迎えたエリツィン氏は現役をはるか昔に引退し、今は悠々自適の毎日を送っている。しかし多くのロシア国民は、エリツィン氏にはそんな老後を送る資格はないと考えている。
エリツィン前大統領の誕生日の前日に世論調査が行われた。それによると7割以上のロシア人はエリツィン氏が嫌いだと答え、約6割がエリツィン氏の政策が嫌いだったと答えた。また「エリツィン政権」に戻りたいかとの問いには、9割が「もう、うんざり」と答えている。
エリツィン前大統領に対してはさまざまな意見や評価があるだろう。しかしいずれにしても現代ロシア史において彼が果たした役割は大きく、その事実を無視することはできない。
しかもエリツィン氏の引退後、彼が私たちに残したものはさまざまな政策だけではない。数々のアネクドートも残してくれたのだ。
とは言え、数と質は必ずしも比例するものではない。質的に優れたアネクドートはソ連共産党やKGBが厳しい検閲を行っていた時代に生まれた。しかしエリツィン政権下のロシアにはこのような全体主義的なファクターはもはや存在していない。このため面白さと言う点ではやや劣ると言える。ただ、全体主義的な共産主義的イデオロギーをぶっ壊した政治家こそ、ボリス・エリツィン氏だった。
このためエリツィン氏は大統領に在任中、ソ連共産党と社会主義体制の復活を最も恐れていたと言われている。
朝。エリツィンの妻がクレムリンの窓から外を見る。そして大声で叫ぶ。
「あなた! モスクワ川がアスファルトで埋まってる!」
エリツィンはちっとも驚かない。
「やったのは、まぁ、その、つまり私だよ。だってジュガーノフが巡洋艦『オーロラ』でクレムリンに近づいたら大変なことになるだろう?」
ペトログラード(今のサンクトペテルブルグ)で1917年10月に10月革命が起きた。その際、巡洋艦「オーロラ」がネバ川からエルミタージュに向かって近づき、空砲を1発鳴らした。それが社会主義革命の始まりの合図となった。エリツィン氏は元共産党員なので、当然、こうした歴史には詳しい。このためロシア共産党のジュガーノフ党首がクレムリンに乗り込んで革命を起こさないよう、進入路を事前に絶つことにしたのだった。
ところでエリツィン氏には口癖があった。それは「まぁ、その」という言葉を話のあちこちに差し挟むことだった。会話の中でこのフレーズが多用されると知性がなく不快な感じに聞こえる。
このためエリツィン氏の「まぁ、その」は知識層にはすこぶる評判が悪かった。エリツィン大統領の物まねをする時にはこのフレーズは欠かせない一言と言える。
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