連載バックナンバー
「介護保険の行方を占うKEY WORDS」 |
第3回(1999年8月号) |
| 「介護保険」の全体を把握することは、容易ではない。中でも多くの人が心配する介護認定については 混乱も予想されているが、このシステム誕生にいたるまでの経過、その基本的な考えを知ることは より確かな制度運用を進めるうえで欠かせない。当会の五十嵐がこの「要介護認定」の背景と仕組みを 分かりやすく整理し、これから始まる新しい制度への賢い対応について論じる。 要介護認定を受けるまで まず要介護認定までの流れを簡単に紹介しよう(図を参照)。お年寄りに何等かの介護が必要になって、介護保険給付を受けようとする場合には、市町村に申請することが必要である。申請を受けた市町村では、当該対象者がどの程度の介護が必要かを判断するために要介護認定の調査を行う。要介護認定は2つの過程を踏む。一つは訪問調査員による聞き取り調査から出される「一次判定」、二つめはかかりつけ医師による「意見書」である。 従って申請を行うと対象者はまず、訪問調査員の調査を受けることになる。一次判定のための調査項目は、基本的な動作の障害や認知問題の有無、治療・ケアの受療状況等85項目に及ぶ。この結果がコンピューターにかけられ、一次判定となる。 一方、医師の意見書は、対象者の疾患や介護が必要になっている状況、経過から判断される介護の状況についての調査書である。この2つの調書が介護認定審査会で協議されて要介護度が判定され、市町村長の名前で認定される。 認定は「要支援」と「要介護1〜5」までの6段階に分けられる。申請しても「自立」と判定されると、介護保険給付の対象にはならないことになる(ただし、一般の福祉サービスを受けることはできる)。 では、なぜ要介護認定が必要なのか、どのような考え方で認定基準が決められているのか、現在の方法での課題はないのか、を考えていこう。 要介護認定の必要性 わが国の介護保険制度では、サービスが提供されるまでの仕組みは、@要介護認定を受ける、その後A必要なサービスが提供されるという2段構えの構造になっている。要介護認定とサービス提供認定の順序については、当初「必要なサービスが把握されて初めて要介護の度合いが分かる」のではないかという議論があった。 この議論も一理あるが、サービスの提供は限りなく個別性をもとに決定されるため、また、地域によってサービスの整備水準にばらつきがあるため、例えば、決定されたサービスが合理的であるのか、標準的であるのか、といった判断の基準が主観的になりやすく、制度の安定性が欠けてしまう。 そもそも対人サービスというのは、対象者をある標準化された方法でカテゴリーに分類し、カテゴリーごとにサービスを提供するのが基本であると考えられる。例えば、医療サービスについては「病名」というカテゴリー分類の方法があるし、水泳教室では級によって分類し、学校においても学齢(年齢)で児童・生徒を分類している。その上で提供されるサービスの水準や方法が大まかに決められているのである。もちろん、個別性はその中で確保されるべきものである。 さて、次に年齢等だれがみても明らかな方法であれば、分類の結果についてはほとんど問題がないし、水泳についても本人が持っている技術や能力といったものは、マスターしている泳法、泳げる距離、タイムなど客観的に計る方法がある。また、医療においては、診断方法によって病名をつけることができる。ただし、この診断が許されているのは国家資格を持つ医師のみとされ、判断結果の客観性を担保しているのである。 では、翻って介護の分野はどうか。従来、介護は家族か社会福祉施設内で多くが担われてきており、介護技術についての研究は進められていたが、介護のカテゴリー化や対象者の分類方法といった研究はほとんどなかった。介護保険制度の導入に当たって、対象者をどのように客観的に分類していくのかといった点について参考になる先行研究はわずかだったのである。 そのわずかな研究は、医療・福祉の対象者に対する「介護量」(介護を受けている時間)を計り、それによって分類していこうというもので、本来の目的は業務の効率化、人材配置計画の基礎資料とすることにあった。細かいことを言えば、同じ介護時間でも入浴介助と家事援助では介護に掛かる負担が異なるため、介護負担といった要素も加味して計られるものが「介護量」である。 こうした背景から、介護保険制度において何等かの方法でまず対象者を分類することが必要となり、その方法としては、現在介護を受けている対象者の実際の「介護量」から「要介護度」を計る(推計する)方法が採用されたのである。 「介護量」はどのように計られるか 要介護度開発の方法はおおむね以下のとおりである。 (1)全国の特別老人ホーム、老人保健施設、老人病院(介護力強化病院)に入院・入所中約4300人の高齢者を対象に、一人ひとりがどのような介護をどの程度受けているかということを「1分間タイムスタディ」という方法で調べる。1分ごとにある職員がどの高齢者にどのような介護を提供しているかを別の職員が付いて記入していき、その集計結果から一人ひとりの介護時間を割り出す。 (2)同時に、入院・入所中の高齢者がどのような障害や属性を持っているかを、別の調査票で調査する。 (3)最後に、介護時間が同じような高齢者を一つのグループとして分類し、分類に必要な障害や属性についての調査項目を統計的に割り出す。 (4)この結果を、在宅でサービスを受けている高齢者にあてはめ、分類が統計的に適切な範囲にあるかどうかを検証する。 このような方法で分類を行った結果、病院・施設に入院・入所している高齢者は14のに分類されることが分かったが、制度として14の分類を管理していくのは繁雑であり、何よりも住民に分かりにくい、ということがあって「要支援」と「要介護1〜5」の6分類にまとめ直された。 さて、このように分類の意味するところは、例えば「要介護3」というのは、調査の結果では「一日当たりの介護時間が100以上135分未満」の要介護度であるということが示されるが、決して「今後、100分から135分の間で介護時間が設定されます」ということではない。 厚生省はこの時間を「要介護認定等基準時間」と呼んでいるが、一般にはなかなか理解しにくい概念である。制度としては、この分類の高齢者には「26万円を限度として介護保険から給付を受けることができますよ」ということを示しているのである。 ところが、この方法で平成9年度、10年度の2ヵ年にわたってモデル調査を行った結果、全国からさまざまな意見があがった。多かったのは「状態像」と「要介護度」が必ずしも一致せず、ある2人の対象者を比較した場合、状態から見て明らかに認定が逆転することがあるというものだ。 市町村職員にしてみれば、住民が自分とほかを比べて明らかに自分の方が障害が重いのにほかよりも低い認定がでるのは納得がいかない、という苦情に対応できない、ということである。これに対する厚生省の説明は「例えば寝たきりの方と寝たきりではないが歩行にふらつきがあり、歩行介助が必要な方を比較すると、寝たきりではない方のほうが多くの介護量を必要とすることがあり、必ずしも状態像と要介護度は一致するもではない」ということであった。確かに寝たきりに場合はそうかもしれないが、そのような事例ばかりではない。 そもそも要介護認定には、状態像が反映されているわけではなかったところに問題があった訳で、このような意見を反映させる形で修正が加えられ約16万人のデータから状態像を勘案して、最終の案が出されたところである。 さらに、一次判定にかかりつけ医師の「意見書」等をもとに、有識者から成る認定審査会で検討し、結果の客観性と信頼性を高めることとしている。 要介護認定の意味 このような要介護認定の方法は介護という分野に初めて(といっても過言ではない)客観的な指標を与えたという意味で評価が高い。制度的にも、この方法で、介護者の状況によらず、本人の状態だけで介護度を決めることができ、制度の基本精神である「自立支援」を明確にすることができ、また全国どこでも、また施設の入所か在宅での療養かによらず、共通の方法で介護度を計ることができるようになった。 しかし、要介護認定そのものもまだ限界があり、現実に使われて理解されるまでにはさらに時間を要する。そこで、最後に要介護認定の意味、問題点、今後の展望について考え方を整理する。 まず、介護保険が他の福氏サービスの供給方法に与える影響は大きい。福祉行政にとって、だれにどの程度の福祉サービス(特に対人サービス)を提供するかを決定する要素は多用である。今回の要介護認定判定基準の開発の経緯を見て、改めて認定の困難さを感じるし、従来の高齢者への福祉サービスの提供がいかに経験則にのっとったものでしかなかったかということが分かる。 要介護認定によって保険による介護サービス給付の上限が設定され、さらに、定期的に要介護の再認定(おおむね6カ月に1回)が行われる。福祉サービスの受給は既得権ではなく、「必要に応じて出し入れ」するべきサービスになる。この考え方は今後、各種の福祉サービス提供方法も変わると考えられる。 一方、問題も多く残されている。第1に、住民に説明困難な点である。行政の仕事を住民に分かりやすく説明することが世の中の流れになっている。今回の要介護認定基準がどのように設定されているかについては述べなかったが、難しい統計分析の手法によっており、単純に85項目のどこをチェックすれば認定を1ランク上げられるか、という簡単なものではない。この方法は統計学的に妥当性が高いかもしれないし、故意に重く判定したり逆に軽く判定したりできないようになっているため、不正の防止にもなる。しかしながら、住民に「なぜ」自分が「要介護3」なのかを簡便には説明できない。 第2に、仮に別の団体が同じ方法で分析しても同じ結果になるとは限らず、反証性、再現性に問題がある。制度の見直し、評価を行う場合に、そもそも国が唯一の研修機関であることがすでに問題であるともいえる。 そして第3に、現在開発中の要介護認定は、調査対象となった施設の介護が適切だという前提に立っているし、それは正しいとして、政策的意図が反映されていない。その例でいくと、「寝たきりの方には歩行が不安定な方よりも手をかけなくてもよい」ということになる。現在はこれで開始するしかないが、いかに見直すかについては政策論議とデータ分析の両方が不可欠である。 しゃりばり掲載図「要介護認定の申請から認定まで」 |