連載バックナンバー
「介護保険の行方を占うKEY WORDS」 |
第4回(1999年9月号) |
| 介護保険が対象とする「障害高齢者」の持つ問題は幅広い。医療依存度の高い者から生活上の困難さが強い者まで、さまざまである。ケアプラン(介護サービス計画)は、障害高齢者が持つ問題を適切にとらえ、自立を支援し、生活の質(QOL)を維持・向上するためにケアを計画的・総合的に提供するためプラン(計画)である。今回は、ケアプランの意味と役割を考え、その作成プロセスへの本人の関与の方法について考えよう。 要介護高齢者が持つ障害とは WHO(国際保健機構)の定義によると、「障害」は大きく3つに分類される。それらは、「impairement(損傷)」「disability(能力障害)」「handicap(生活障害)」である。例えば、脳卒中や脳血管障害による脳の損傷、は「impairement」であるが、その結果後遺症として残る歩行困難や下半身麻痺、言語障害は「disability」である。さらにその結果、自分の意のままに外出できなくなったり、親しい友人や家族と会話ができなくなったり、といった生活上の障害「handicap」が残る。近年、ノーマライゼイションの普及により、「handicap」こそ克服すべき障害であることがうたわれるようになっている。 介護保険が対象にしているのは、このような生活障害を持った高齢者であり、背景には医療ニーズや能力障害を持っている。このような対象者は医療がこれまで対象としてきた「患者」ではなく、また、福祉が中心的に対象としてきた経済的な「困窮者」でもない。対象とすべきは新たな概念の障害であり、ケアプランはその枠組みに沿った支援の計画でなければならない。 ケアプランの必要性 治療計画は医師の診断なくしては立てられないが、ケアプランは、本人が作成してもよいところが医療との大きな違いである。ただし、自分で作成する場合は、と手続きがやや繁雑である。また、多くの高齢者がサービスの内容を十分に把握していなかったり、多様なサービスを自分でアレンジすることは繁雑であるため、特に多くのサービスを必要とするような対象者はケアマネジャーにケアプラン作成の依頼することになると考えられる。 では、なぜケアプランが必要なのか。ケアプラン作成の目的は、3つに整理される。第一には、依頼者の意向を汲みつつ専門家の立場から状態を判断し、本人の「自立した姿」を示すことである。障害そのもの(損傷や能力障害)は非可逆的であるかもしれない。例えば、脳血管障害それ自身を元にもどすことはできない。が、本人がその結果としての障害を受け止め、出来る限り生活上の障害を最小限にすることはできる。そのためのケアの方針やケアの内容を明確にすることが大きな目的である。 第二には、かかわるチームメンバーの共通認識をはかり、ぞれぞれの役割分担を明確にすることが目的である。サービス提供者は必ずしも一つの機関のスタッフのみとは限らない。また、同一機関のスタッフがかかわっても必ずしも共通の認識と知識で行動しているとは限らない。例えば、「食事介助」というケアの内容には、「介助者が口に食べ物を運んであげる」介助や「本人を励ましながらゆっくりでも自分一人で食べられるように見守る」介助もある。どちらが適切かはその対象者にの状態に応じて異なる。全く手が動かず、自分では食べ物を口に運べない場合には「介助者が口に食べ物を運んであげる」介助が適切であろうし、腕の可動域が少しでも残されている場合には「本人を励ましながらゆっくりでも自分一人で食べられるように見守る」介助が適切であろう。なぜ、どのようなケアが必要とされているのかを担当する全スタッフが知っていなければ、ちぐはぐなケアの実施になること危険があるのである。 第三には、ケアマネジャー(またはケアプラン作成者)がケアの目標を明確にし、ケアの根拠を示すために、また、それに応じて各種の調整を行うために記録することが目的である。それによってメンバーの役割分担のみならず、ケアマネジャー自身の責任を明確にすることができるようになるのである。 介護サービス計画の種類 介護保険下における介護サービス計画は、大きく3つの種類があると考えられる。第1はどのような障害に対してどのようなケアを実施するかを比較的細かく計画するもので、本来の「ケアプラン」であり、第2はサービスの組み合わせを示し、おおむね1週間にどのようなサービスを受けるかを示す「サービスプラン」である。最後に第3に介護保険の仕組みに従った要介護度に応じたいわば支給限度管理表である。それぞれの例を図1、図2、図3に示す。 図1のケアプランは、治療計画、看護・介護計画、リハビリ計画といったものに匹敵するものであり、これまで一人のクライアントに対して別個に立案されていたものを統合したということができる。これによって、一人のクライアントに必要なケアの全体が明確になり、スタッフの役割も明らかにすることができるのである。図2のスケジュール表は、本人がどのようなサービスを受けるのかを日課表としての意味もある。そして図3はサービスの実施管理表であり、請求書の基礎となると同時に給付限度額管理として活用することができる。この3つの表は、実際にはケアマネジャー以外のだれかが作成することがあるが、いずれもケアマネジャーが管理し、責任を持って調整し、評価することが必要である。 ケアプラン作成の過程 ケアプラン作成は、ケアマネジャーに依頼するからといっても人任せではいけない。その決定プロセスに必ず本人や家族、またはそれに替わる者の関与が必要である。特に、痴呆高齢者の場合は、自分の意志を確実に伝えることが困難になっているため、本人をよく理解し、代弁してくれる人を予め決めておくことも必要になっている。それが成年後見人制度である。 近年、医療において「インフォームドコンセント」の重要性が論議されている。一般には「説明と同意」と訳されているが、筆者は「説明と納得」の方が適当ではないかと思っている。というのは、医師から治療方針と方法を説明されて同意しない場合はほとんどない。が、それで理解し納得しているかどうかは疑問がある。「介護」という生活場面では、特に納得のいく説明と合意が可能であり、また、そうしなければ有効なケアは提供されないと思われる。 では、ケアマネジャーの立場でどのようにケアプランを作成するか。面談アセスメントの結果から、その場で本人や家族に判断される障害の状況、および考えられるケアとサービスをその場で説明し、大方の了解を得る。その場は、一旦「サービスの確認と打ち合わせをして、後日ケアプランにまとめて来るので」と去る。すぐに関係機関のスタッフを招集し、細かな点をつめ、それぞれの役割分担を決定する。ここで重要なことはその場で、おおむね本人と家族の了解を得ることだ。迅速に対応することが何よりも相手の信頼感を得ることにもつながる。現在のお年寄りはサービスを受けることについて、遠慮がある。介護保険になって保険料を支払うようになるとかわっていうことが期待されるが、当面は過渡期であり、円滑なサービス利用には結び付かないかもしれない。それを円滑に実施するのがケアマネジャーの役割の一つであろう。 現在のケアプランの問題点 わが国の介護の構造は良くも悪くも家族が中心になっている。それを高齢者本人の問題としてとらえ直すことから介護保険制度は始まる。従来のケアプランはともすれば、家族の支援プランになりがちであった。家族介護はもちろん重要であるし、生活は家族が基本である。しかし、介護保険制度は、家族がいてもいなくてもサービスを受けることによって生活が継続されることを保障する制度である。場合によっては、家族もケア提供者のネットワークの一員として本人の自立した生活支援のために役割を担うことになる。ケアプラン表に家族が実施する場合は家族の役割を記入するようになっているのは、そのためである。近年、表面化しないまでも家族による高齢者の虐待が問題になっている。虐待は本人が意図してかしないかによらず起こるものと定義されており、結果として放置につながるものも含まれる。介護の負担を一心に担っているために疲れ、それが放置や叩くなどの行動に結びついてしまう。あまりにも依存した関係や一人だけの負担になっている場合などにこのような虐待が起こりやすい、といわれているが、近年ではさらに日常的に行われているのではないか、との報告もある。 第2に、ケアプランは本人または家族の了解が必要であり、当初から本人への開示が求められる。このことが現在のケアプランの位置付けを大きく変化させることが期待され、また、広く医療や福祉の分野に本人への情報公開の在り方を考えさせるきっかけとなることが期待される。 しゃりばり掲載表 |